居住者である外国人が相続により取得した外貨預金を日本に送金した場合の為替差益の取扱い

2024.11.23  [Sat]

大阪市に事務所を構えます、相続・国際税務を専門にする村田綜合税務会計事務所です。
日本に居住する外国籍の方が、海外に居住する被相続人より相続をした外貨預金を日本に送金し、円として受け取られるケースがございます。この場合、円として受け取られた金額と、外貨預金を相続した日での為替相場との差額を為替差益として認識するべきか?という問題が生じます。
特に、昨今は円安傾向が続いているため、為替差益が出やすい経済環境にあるということもあり、この論点についてまとめました。

結論、所得税法上、為替差益として課税することは難しく、所得税の課税は行われません。以下、考え方をまとめます。

1.相続については、所法57条の3に規定する外貨建て取引には該当しないこと

所法57条の3では、「居住者が、外貨建取引(外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいう。以下この条において同じ。)を行つた場合には、(以下略)」とされており、外貨預金の相続そのものは本件条文に規定する外貨建取引の定義には該当しません。

所法57条の3の規定は企業会計上の会計基準が背景にあるところ、IFRSによる外貨建て取引の定義は、「外貨建取引(foreign currency transaction)とは、外貨での決済を必要とする取引IAS21.20」とされており、相続による取得は決済を必要とするものではないため、当該外貨建取引の定義にも当てはまりません。

 

2. 仮に、被相続人から相続人への相続が外貨建て取引であるとしても、所得税法573に規定の対象には当てはまらないこと

所法57条の3では、「居住者が、外貨建取引(外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいう。以下この条において同じ。)を行つた場合には、(以下略)」とされており、海外に居住する被相続人は所得税法上非居住者に該当していたことから、所得税法573に規定の対象には該当しません。

3.往復の通貨の交換取引が生じていないこと

国税庁質疑応答事例によると、「為替差損益は、一般的には異なる通貨の交換(往復)により発生する」とされている。したがって、為替差損益を認識するためには、必ず往復の通貨の交換取引が必要であるものの、本件については、相続で受け継いだ外貨預金を日本円に円転したのみであり、異なる通貨の往復は生じていない一方通行の取引であることから、為替を比較する対象が存在しません。

<参考>

国税庁保有する外国通貨を他の外国通貨に交換した場合の為替差損益の取扱い

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/02/41.htm、(参照2024-09-12

 

以上から、相続は外貨建取引に該当せず、送金・円転時の為替と比較することも出来ないため、為替差益が認識できず、課税はなしとなります。

外貨建て取引をめぐる税務の取扱いは専門家や税務署でも見解が分かれることが多いトピックです。もしお困りの方がおられましたら、お問い合わせフォームよりお問い合わせ下さい。

 

 

 

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