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2024年度(令和6年度) 税制改正大綱の解説
2023年12月14日に、与党により令和6年度の税制改正大綱が発表されました。以下、税目ごとに、重要なポイントを中心に、改正の概要をまとめました(情報が出るに従い、順次修正・追加して参ります)。本改正は、例年通りの流れで行きますと、4月に法案が国会を通過し、成立となる見通しです。
1. 個人所得課税
(1) 特別控除の実施(但し、合計所得金額が1,805万円以下(給与だと年収2,000万円以下)の場合に限る)
①特別控除の金額
・本人 3万円
・配偶者及び扶養親族 1人につき3万円
②実施方法
令和6年6月1日以降最初に支払を受ける給与もしくは年金につき源泉徴収をされるべき所得税から控除を行い、もし控除しきれない金額がある場合には、それ以降支払われる給与から順次控除する。
また、事業所得者の場合、令和6年分の所得税に係る第1期分予定納税額(7月)から本人分に係る特別控除額を控除する。控除しきれない場合は、第2期分の予定納税額から控除する。配偶者及び扶養親族分の控除を受けるためには、予定納税の減額承認の申請が必要。確定申告書を提出する際に、所得税額から特別控除の額を控除する。
個人住民税についても、上記所得税と同様の要領で実施され、金額は
・本人 1万円
・配偶者及び扶養親族 1人につき1万円
である。
(2) ストックオプション税制
新株予約権の行使による株式取得に係る経済的利益の非課税に関して、次の措置をとる。
①非課税となる要件のうち、「株式の管理等に関する契約に従って、株式会社により株式の管理がされること」の要件を満たす場合は、「金融商品取引業者等の営業所等に保管の委託がされること」の要件を満たすことを不要とする。
②権利行使額の限度額
・設立5年未満の株式会社が付与する場合 2,400万円(現行:1,200万円)
・設立5年~20年未満の未上場会社もしくは上場後5年未満の会社 3,600万円(現行:1,200万円)
➂特定従事者に係る要件について、次の見直しを行う。
・認定新規中小企業者等に係る要件のうち、エンジェル投資家が新規中小企業株を最初に取得する際に、「資本金の額が5億円未満かつ従業員数900人以下の会社であること」との要件を廃止する。
・社外高度人材に係る要件のうち、「3年以上の実務経験があること」の要件を、発行会社の役員については「1年以上の実務経験があること」とし、国家資格を有する者等については要件を廃止する。また、社外高度人材にの範囲に、教授及び準教授など一定の者を加える。
特定中小会社が発行した株式の取得に要した金額の控除等、及び譲渡損失の繰越控除等について次の措置を講ずる。
①特定株式の取得金額の範囲に、新株予約権で講師をした場合における新株予約権の取得に要した金額を加える。
②特定新規中小企業者に該当する株式会社等により発行される特定株式を一定の信託を通じて取得をした場合を加える。
特定新規中小会社が発行した株式を取得した場合の課税の特例のうち、国家戦略特別区域法や地域再生法に規定する確認手続きにおいて、株主総会の議事録等の書面添付を廃止し、株式の発行期限を2年延長する。
(3) NISA
①金融機関は、書面による口座廃止通知の交付に変えて、電子的方法により提供できることとする。
②口座開設者は、廃止通知書に記載すべき事項や、NISA口座開設届出書を電子的方法により出来ることとする。
(4) 住宅ローン控除
①認定住宅の新築等をした場合、住宅ローン年末残高の限度額を次の通りとして、特例の適用が出来ることとする。
住宅の区分 | 借入限度額 |
認定住宅 | 5,000万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 |
②対象者
・40歳未満で配偶者を有する方
・40歳以上の方で、40歳未満の配偶者を有する方又は19歳未満の扶養親族を有する方
(5) 既存住宅の改修工事をした場合の所得税額の控除
(4)②に記載した個人が、居住家屋に子育て対応改修工事をした場合、標準的な工事費用相当額(250万円を限度)の10%を所得税から控除する。
2. 相続税
(1) 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税措置
①適用期限を3年延長する。
②非課税額の上乗せ対象となるエネルギー使用の合理化に著しく資する住宅用家屋の要件について、省エネ性能が断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上とする。
(2) 個人の事業用資産もしくは非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度について、特例承継計画の提出期限を2年延長する。
3. 法人税
(1) (全法人向け)給与等の支給額が増加した場合の税額控除
①原則の税額控除率を10%(現行:15%)に引き下げる。
②税額控除率の上乗せ措置を次の通りとする。
・給与支給額の増加割合が4%以上である場合 税額控除率に5%を加算(増加割合に応じて、10%もしくは15%)
・教育訓練費の額の増加割合が10%以上であり、かつ雇用者給与等支給額の0.05%以上である場合 税額控除率に5%を加算
・プラチナくるみん認定またはプラチナえるぼし認定を受けている場合 税額控除率に5%を加算
(2) 青色申告法人で従業員数2,000人以下のものが、給与増加割合が3%以上であるときは、給与支給増加額の10%の税額控除が出来る措置を加える。この場合、上記(1)②同様の上乗せ措置も合わせて行う。
(3) 中小企業向けの給与支給増加額の税額控除措置については、控除限度超過額は5年間の繰越が出来ることとした上、適用期限を3年延長する。
(4) 大企業向け研究開発税制を適用できないこととする措置について一定の見直しを行い、適用期限を3年延長する。
(5) 青色申告法人が令和9年3月31日までの間に産業競争力強化法の特別事業再編計画(仮称)の認定を受け、その計画に従い他法人の株式取得を行い、これを取得の日を含む事業年度終了の日まで引き続き有している場合、その株式の取得価額に次の割合を乗じた金額を積み立てているときは、その積み立てた金額をその事業年度において損金算入する。
①計画に従って最初に取得をした株式等 90%
②①以外 10%
この準備金は株式を有さなくなった場合は取り崩すほか、積み立てた事業年度終了日の翌日から10年を経過した日を含む事業年度から5年間で益金算入する。
(6) 戦略分野国内生産促進税制の創設
青色申告法人で、産業競争力強化法の認定事業適応事業者であるものが、産業競争力基盤強化商品の生産設備の新設・増設を行い、事業に使用したときは、認定の日を含む10年以内に一定額を税額控除する。
(7) イノベーションボックス税制の創設
青色申告法人が居住者もしくは内国法人に対する特定特許権等の譲渡もしくは貸付を行った場合には、取引に係る所得の金額等の30%を損金算入する。
(8) 交際費等の損金不算入制度(適用時期:令和6年4月1日~)
①適用期限の3年延長を行う
②交際費等の範囲から除外される飲食費に係る基準を1人当たり1万円以下(現行:5,000円以下)に引き上げる。
(9) 外形標準課税の改正(適用時期:令和7年4月1日~)
①現行基準である資本金1億円超を維持するものの、当分の間、前事業年度に外形標準課税の対象であった法人で、資本金及び資本剰余金の合計額が10億円を超えるものは、外形標準課税の対象とする。
②資本金及び資本剰余金の合計額が50億円を超える法人の100%子法人のうち、資本金が1億円以下で資本金と資本剰余金の合計額が2億円を超えるものは、外形標準課税の対象とする。
(10) 農業者等の特別償却(適用時期:法施行日~令和9年3月31日までの取得)
農業の生産性向上のためのスマート農業技術の活用促進に関する法律の制定を前提に、青色申告法人で同法の生産方式革新実施計画の認定を受けた農業者等が、次の機械等で一定の基準に適合するものを取得した場合は、次の償却率に応じた特別償却ができることとする。
①認定生産方式革新実施計画(仮称)に供する機械装置、器具備品。建物等及び構築物 32%もしくは16%
②認定生産方式革新実施計画に記載された生産方式革新事業活動の促進のための機械装置 25%
(11) カーボンニュートラル投資促進税制の改正
①中小企業者が生産工程効率化設備の取得等をする場合の特別償却率及び税額控除率を認定エネルギー利用環境負荷低減事業摘要計画に記載された区分に応じ、次の率とする。
・炭素生産性向上率17%以上 特別償却率50%又は税額控除率14%
・炭素生産性向上率10%以上17%未満 特別償却率50%又は税額控除率10%
②対象資産に一定の鉄道用車両を加え、市場に流通している照明設備及び対人空調設備を除外する。
4. 消費税
(1) プラットフォーム課税の導入
①国外事業者がデジタルプラットフォームを介して行う電気通信利用役務の提供(消費者向け電気通信利用役務の提供)のうち、下記②の指定を受けたプラットフォーム事業者を介して対価を受けるものは、そのプラットフォーム事業者が行ったものとみなす。
②国税庁長官は、①の対価の額の合計額が50億円を超える場合には、当該プラットフォーム事業者を特定プラットフォーム事業者として指定及び通知を行い、その名称等をインターネットを通じて公開する。指定をされた事業者は、その課税期間に係る確定申告書の提出期限までに、その旨を国税庁長官に届け出なければならない。
(2) 事業者免税点制度の特例の見直し(適用時期:令和6年10月1日以降に開始する課税期間)
①納税義務の免除の特例について、課税売上高に代わり適用可能とされている給与支払額による判定の対象から国外事業者を除外する。
②資本金1,000万円以上の新設法人に対する納税義務の免除の特例について、外国法人は基準期間を有する場合でも、国内の事業開始時にこの特例の適用判定を行う。
➂資本金1,000万円未満の特定新規設立法人に対する納税義務の免除の特例について、特定新規設立法人に、国外分を含む収入金額が50億円超である者を親会社とする法人を含む。
(3) 簡易課税制度等の見直し(適用時期:令和6年10月1日以降に開始する課税期間)
国内に恒久的施設を有しない国外事業者には簡易課税制度の適用を認めないこととする。
(4) 輸出物品販売制度の見直し
輸出物品販売場における免税販売の要件として、新たに政府の免税販売管理システムを通じて取得した税関確認情報(仮称)の保存を求めることとする。
(5) 外国人旅行者向けに免税購入された物品と知りながら行った課税仕入れについては、仕入税額控除の適用を認めないこととする(適用時期:令和6年4月1日~)。
(6) 自動販売機の商品を購入した場合の課税仕入れについては、帳簿への住所等の記載を不要とする。
5. 国際課税
令和5年度税制改正において、IIR(Income Inclusion Rule:いわゆる軽課税国に子会社を有する場合に、当該国の利益のうち、15%に満たない額を日本側の所得とみなして課税する制度)が日本国内でも導入されました。
世界では、UTPR(Undertaxed Payment Rule: 軽課税国の関連企業への支払いを行っている子会社等に対して,その支払会社の国で最低税率まで(損金算入否認等の形で)課税するというルール)及びQDMTT(Qualified Domestic Minimum Top-Up Tax: 自国に所在する事業体の税負担が. 最低税率(15%)に至るまで課税する制度)が導入されている国もあります。それに伴い、以下の措置が予定されています。
(1) 子会社の所在国において、QDMTTもしくはUTPRの適用がある場合は、日本においてIIRによる課税は行わない。
(2) 子会社におけるQDMTTもしくはUTPRによる課税額は外国税額控除の対象とし、IIRにおける課税額は外国税額控除の対象としない。
以上、2024年度税制改正大綱の大まかな概要をまとめました。対象となるものは各個人様、法人様によってバラバラかと思いますので、もし気になる点がございましたら、村田綜合税務会計事務所まで、お気軽にお問い合わせ下さい。